2025年 買取業界の未来予測:AI査定・即金アプリ・DX化の最新トレンド

目次

I. 2025年 買取業界のパラダイムシフト:市場の今と変革の波

2025年の買取・リユース業界は、深刻な構造的課題と持続的な市場成長という二重の圧力の中で、必然的な変革期を迎えています。

市場のポテンシャルと二極化する成長

リユース市場は3兆円規模の巨大マーケットへと変貌を遂げ、持続的な成長フェーズに入っています。しかし、この成長は均一ではありません。

第一に、B2B(法人在庫買取)市場が顕著な拡大を見せています。従来は処分に困っていたB品(訳あり品)や型落ちした家電製品が、アパレル、雑貨、玩具、さらには食品に至るまで、多様な業種で積極的に買取・再販されるようになりました。これにより、在庫買取サービスそのものの需要が急増しています。

第二に、特定のB2Cセグメントが市場全体の成長を牽引しています。特に玩具・模型分野や中古スマートフォン市場の伸びが顕著です。この中古スマホ需要の高まりを背景に、ゲオモバイルは2025年7月時点で全国800店舗の出店を達成し、今後は1,000店舗規模への拡大を目指す計画を発表しています。これは、マスマーケットにおいて「規模の経済」を追求する戦略の典型例と言えます。

変革の最大の触媒:「2025年の崖」という課題

2025年における急速な技術導入の背景には、企業の生存に関わる深刻な課題、「2025年の崖」が存在します。

多くの大手買取・リユース企業は、1990年代から2000年代初頭に構築されたレガシーシステム(老朽化・複雑化・ブラックボックス化)を依然として運用しています。2025年は、この問題が顕在化するタイムリミットとされています。

この「技術的負債」は、経営に深刻な影響を及ぼします。企業のIT予算の実に9割以上が、新サービス開発のような戦略的な「攻めのIT」投資ではなく、既存システムの維持・管理費(「守りのIT」)に充てられる事態が予測されています。

さらに、IT人材の枯渇がこの問題に拍車をかけます。2025年には国内のIT人材不足が約43万人に拡大するとされ、特にレガシーシステムを支えてきたベテランエンジニアの高齢化と大量退職が、システムの維持管理自体を困難にしています。

この状況は、2025年の買取業界の戦略を根本から規定しています。AIや新サービスの急速な導入は、単なる成長戦略である以上に、「2025年の崖」を乗り越えるための防衛戦略でもあるのです。企業は、AI導入による業務合理化などで「守りのIT」コストを早急に削減し、そのリソースを「攻めのIT」(新サービス)に再配分しなければ、市場競争から脱落するという危機感に直面しています。

この結果、市場は明確に二極化しつつあります。「規模と効率」を追求するマスマーケット(例:ゲオモバイル)と、「専門性と体験価値」を追求するニッチマーケット(例:後述するKOV)です。この二極化は、企業が採用すべきテクノロジー戦略が根本的に異なることを示唆しています。

II. AIの全面導入:査定、真贋鑑定、UXの自動化と高度化

2025年、AI技術の導入は単なる業務効率化の域を超え、従来の買取プロセスそのものを再構築し、顧客体験(UX)を根本から変革するドライバーとなっています。

2025年 買取業界における主要AI技術 導入インパクト比較

「AI導入」と一口に言っても、その適用領域と戦略的インパクトは多岐にわたります。2025年の主要なAI活用事例は、以下の4つの領域に分類できます。

技術/サービス導入企業/アプリ解決する従来の課題業務プロセスへの影響顧客体験(UX)への影響
AI即金アプリChalyn出品・梱包・交渉の煩雑さ、現金化までの時間査定・物流・決済を垂直統合。CtoCの商流をCtoBに奪取します。写真撮影のみで即時現金化。フリマアプリの全ストレスを排除します。
AI真贋鑑定Fakiebusters偽造品の流通リスク、鑑定コスト、属人化AIと専門家による高精度鑑定。CtoBtoCモデルの信頼を担保します。高額品を安心して売買できる市場インフラを提供します。
AI査定(不動産) AI査定プロ査定金額の属人性、根拠の不透明性、精度の低さ査定プロセスを標準化し、根拠を明確化。営業の属人性を排除します。納得感のある査定根拠の提示。迅速な価格把握ができます。
UX最適化AIブックオフ (ZETA HASHTAG)EC在庫の膨大さによる商品発見の困難さ、低い回遊性レビューからAIがタグを自動生成。商品露出の最適化を行います。「#読みやすい」等、偶発的な商品との出会い(セレンディピティ)を創出します。

詳細分析(1):「Chalyn」の衝撃 – 買取プロセスの垂直統合

2025年9月に提供が開始されたAI即金アプリ「Chalyn(チャリン)」は、従来の買取プロセスを根本から破壊する「フルスタック・ビジネスモデル」を提示しています。

このサービスは、ユーザー体験を劇的に簡素化しました。ユーザーは売りたい商品をスマートフォンで撮影するだけです。AIが即座に自動査定し、金額を提示。ユーザーが金額に合意すると、宅配員が自宅まで集荷に来ます。これにより、従来のフリマアプリなどで必須であった「出品作業」「梱包」「購入者との価格交渉やメッセージのやり取り」といった手間が完全に解消されました。

このビジネスモデルは、単なる「査定ツール」の提供ではありません。「査定・物流・決済・法務(eKYC)」を垂直統合した、新しいビジネスモデル変革です。CtoCプラットフォーム(個人間取引)の最大の弱点である「面倒くささ」をAIと物流ネットワークで徹底的に排除することで、CtoC市場の流動性をCtoB(事業者買取)市場へと奪取しようとする、極めて戦略的な「ディスラプター(破壊者)」モデルと言えます。

また、ChalynはeKYC(オンライン本人確認)による厳格な本人確認と、後述するIVA独自の真贋鑑定技術を組み合わせることで、即時性と安全性の両立を図っています。

詳細分析(2):「Fakiebusters」 – 信頼インフラの構築

Chalynのビジネスモデルを支える基盤技術が、同じくIVAが運営するAI真贋鑑定サービス「フェイクバスターズ」です。国内シェアNo.1を謳うこのサービスは、2025年においてもリユース市場の成長を支える「信頼のインフラ」としての役割を強化しています。

フェイクバスターズは、膨大なデータに基づく「AI鑑定」と、多彩な経歴を持つ「鑑定チーム」および最新鋭の専門機器を組み合わせ、スニーカー、アパレル、時計、トレーディングカードなど約300のブランドに対応しています。

この真贋鑑定技術の高度化は、Chalynのような即金アプリの信頼性を担保する上で不可欠です。Chalynでは、高額品は商品到着後に「Chalyn独自の真贋鑑定」を経て最終的な金額が確定されます。これは、AI即金モデルが高額品(例:ロレックス)を扱う上で最大のリスクとなる「偽造品」を、自社のAI真贋技術でヘッジしていることを示します。AI真贋鑑定は、AI即金ビジネスを成立させるための必要不可欠なリスク管理インフラなのです。

詳細分析(3):「ZETA HASHTAG」 – ECにおける顧客体験の変革

AIの活用は、新しいビジネスモデルの創出だけでなく、既存ビジネスの顧客体験を最適化するためにも進んでいます。ブックオフ(2025年6月)およびコメ兵(2025年2月)は、それぞれの公式オンラインストアにハッシュタグ活用エンジン「ZETA HASHTAG」を導入しました。

この技術がもたらしたUXの変革は、AIがレビューのテキスト情報を解析し、タグを自動生成する点にあります。従来の商品説明文に基づくタグ(例:「#小説」)だけでなく、「#人生を変える」「#読みやすい」「#モチベーションが上がる」といった情緒的・感覚的なタグが自動で付与されます。

ブックオフ公式オンラインストアの在庫は約500万点に及びます。このような膨大な在庫の中からでも、ユーザーは自身の興味・関心に合う書籍や、「#芥川賞」「#本屋大賞」といった特集記事と連動した商品を、より直感的に発見できるようになりました。これはサイト内の回遊性を劇的に向上させます。

これらの事例は、2025年におけるAI戦略の分岐を示しています。一つは、ブックオフのようにAIを用いて既存事業(ECサイト)の発見性や回遊性を高める「プロセスAI(最適化)」のアプローチです。もう一つは、IVA(Chalyn)のようにAIを用いて新しい売却体験を創造し、既存のCtoC市場のルール自体を変えようとする「ディスラプターAI(破壊)」のアプローチです。企業は自社の立ち位置(既存の強者か、新規の挑戦者か)によって、採用すべきAI戦略が根本的に異なることが鮮明になっています。

III. サービスモデルの進化と顧客エンゲージメント戦略

AIをはじめとする技術革新が「効率」を追求する一方で、2025年のサービスモデルは「顧客との関係性深化」と「専門性」を追求する方向へと進化しています。テクノロジーとヒューマンタッチが、それぞれの領域で高度化しています。

ロイヤリティプログラムの変革:トレジャーファクトリー「トレポ」

トレジャーファクトリーは2025年7月、「買取でもトレポが貯まる」新サービスを開始し、顧客との関係性を再定義する一歩を踏み出しました。

従来、同社のポイント(トレポ)は「購入時」にのみ付与されていました。しかし新モデルでは、「売却時(買取)」にもトレポが付与されるようになります。貯まったポイントは、従来通り「購入時の値引き」として1トレポ=1円で利用可能です。

さらに重要なのは、その将来構想です。今後は、貯まったトレポを「次回の買取利用時に、買取金額に上乗せする」機能の追加が予定されています。

この戦略は、単なるポイントサービスに留まりません。従来の買取は「現金化」で顧客との関係性が終了する一回限りの取引(トランザクション)でした。しかし、買取顧客にポイントを付与することで、彼らを「購入顧客」へと転換させます。特に「買取額へのポイント上乗せ」機能が実現すれば、顧客を自社サービス内に留まらせる(ロックインする)強力な動機付けとなります。これは、「売り、そのポイントで、買う」という循環型の顧客エコシステムを構築し、顧客LTV(生涯顧客価値)を飛躍的に高める可能性を秘めています。

専門特化型へのシフト:買取王国「KOV」

買取王国は2025年5月、同社初となるヴィンテージ古着専門店「KOV 大須店」をオープンしました。これは、AIによる標準化・効率化とは対極にある「専門性」による差別化戦略です。

この背景には、ヴィンテージ古着の世界的なムーブメントと価格高騰があり、一部は投資対象としても注目されています。

KOVの戦略は、従来の総合リユース業態では実現が困難であった、専門的な「品揃え」「空間」「接客サービス」を提供することにあります。AI査定は標準化された商品の査定は得意ですが、一点物のヴィンテージ品の背景や希少性といった真の価値を評価することは困難です。「KOV」は、「総合業態では実現困難」と明記することで、あえてAIの対極にある「人間の知見(知識と経験)」という付加価値で勝負する道を選んだことを示しています。これは同社の「新規事業及び海外進出の足場固め」としても位置付けられています。

買取事業者を支えるBtoBサブスクリプションモデルの台頭

買取業界の活況は、買取事業者自身をクライアントとする新たなBtoB支援サービス市場を生み出しています。2025年には、特にサブスクリプション型のサービスが目立ちました。

  • ファイナンス支援: テモナ(サブスクソリューションズ)は2025年4月、企業が保有する「在庫」やサブスク型ビジネスの「売掛債権」をもとに資金調達を可能にする新プラン(サブスクバック、サブスクRBF)の提供を開始しました。これは、リユース業特有のキャッシュフロー課題(仕入れ先行)を解決し、在庫の流動性を高めるものです。
  • WEB制作支援: 株式会社ピーパタは2025年8月、買取店運営者向けに「サブスク型WEB制作」サービスを開始しました。これは制作費0円、月額8000円から専門サイトを運営できるモデルです。

これらの買取事業者向けBtoBサービス、特に在庫を担保とする金融サービスの登場は、買取業界がもはや単一の業態ではなく、独自の金融システムや支援産業を必要とする「独自の経済圏(エコシステム)」へと成熟したことを示しています。

IV. オペレーショナル・エクセレンス:DXによる業務プロセスの合理化

AIのような先進技術の導入と並行し、2025年は業務プロセスの非効率な「ボトルネック」を解消し、オペレーション効率を最大化するためのDX(デジタルトランスフォーメーション)も大きく進展しました。特にオンライン本人確認(eKYC)の導入と、OMO戦略の深化が注目されます。

オンライン完結の「鍵」:eKYC(オンライン本人確認)の導入

2025年9月、古物買取の「爆益買取」が、オンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」を導入したことは、業界にとって象徴的な出来事でした。

宅配買取ビジネスのスケールを阻害していた最大の要因は、古物営業法に準拠するためのアナログな本人確認プロセスでした。従来の郵送買取では、非対面での本人確認のために、利用者は住民票(原本)を取得し、商品に同封して郵送するという、極めて煩雑な手続きが必須でした。これは顧客の離脱(ドロップオフ)の最大の原因となっていました。

「LIQUID eKYC」の導入は、この「リーガル・ボトルネック(法律上の障害)」を解消しました。利用者は、スマートフォンのカメラで運転免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類を撮影し、自撮りの顔写真と照合する、あるいは公的個人認証(JPKI)を利用するだけで、本人確認がオンラインで完結します。

これにより、住民票の取得・同封が一切不要となり、店頭持込時の身分証読み取りも不要になるなど、利用者の手続きは劇的にスムーズになりました。eKYCは、コンプライアンス(法令遵守)とUX(顧客体験)を両立させ、宅配買取ビジネスの本格的なスケールを可能にする「」となったのです。

OMO戦略の深化:店舗網(リアル)とEC(デジタル)の融合

2025年、大手リユース企業は、自社の最大の強みである全国の店舗網をデジタルと融合させる「OMO(Online Merges with Offline)」戦略を加速させています。

  • セカンドストリート: 全国の実店舗約900店と自社ECサイトを強力に連携させ、「相互送客」を促進しています。一点物であるリユース商品の膨大な在庫(全店舗の在庫)を、ECサイト上で横断的に検索・購入可能にしています。
  • ブックオフ: 約500万点の在庫を誇る「ブックオフ公式オンラインストア」とリアル店舗を連携させ、「店舗受取サービス」を提供。ECで購入した商品を、利用者の最寄りの店舗で受け取れる利便性を実現しています。

このOMO戦略は、Chalynのようなデジタル専業のスタートアップに対する、既存大手企業の最大の防衛策(Moat)であり、同時に最大の武器です。スタートアップは、セカンドストリートが持つ900店舗という物理的な在庫拠点網や顧客接点を容易に模倣できません。この「店舗網(リアル)」と「EC(デジタル)」のハイブリッド・モデルこそが、大手リユース企業の強力な競争優位の源泉となります。

非対面契約プロセスの確立(関連技術)

直接的には買取業界の事例ではありませんが、2025年8月に保険・金融業界向けにリリースされたオンライン商談システム「ROOMS」の新機能は、今後の買取業界のDXにも大きな示唆を与えます。

このシステムは、オンライン商談中に企業側が顧客に一時的に画面の「操作権限」を移譲し、顧客自身が契約フォームなどに入力できる機能です。その際、入力中の個人情報や機微情報が企業側の担当者画面には映らないよう「マスク機能」が作動します。

この技術が応用されれば、B2Bの在庫買取や高額品の売買など、従来は対面での署名・捺印が求められた複雑な買取契約を、セキュリティとコンプライアンスを担保しながら完全非対面で完結できる可能性が示されました。

V. まとめ:2025年以降の買取業界の針路

2025年に観測された一連の技術革新とサービス変革は、買取・リユース業界が新たな競争フェーズに突入したことを明確に示しています。

(まとめ1)「2025年の崖」を越えた二極化の加速

2025年は、買取業界が「2025年の崖」を乗り越えられる企業と、レガシーシステムに縛られ変革に着手できない企業とに、明確に選別された年となりそうです。

DXに成功し、この崖を越えた企業は、以下の二つの戦略的パス(あるいはそのハイブリッド)において、競争優位を確立しつつあります。

  1. 「ハイパー・エフィシエンシー(超効率化)」戦略: AIによる即時査定、eKYCによる法務プロセスの自動化、そして物流を統合し、圧倒的な「利便性」と「スピード」でマスマーケットを制覇するモデル(例:Chalyn, ゲオモバイル)。
  2. 「ハイパー・スペシャライゼーション(超専門化)」戦略: AIによる標準化とは対極にある「人間の知見と経験」を武器に、ヴィンテージや高級ブランドといった特定の高付加価値領域で、専門的な「体験価値」を提供するモデル(例:KOV, コメ兵)。

(まとめ2)「信頼」と「循環」のインフラ構築

市場が高度化・複雑化する中で、ビジネスの基盤となる「インフラ」の重要性がかつてなく高まっています。2025年に顕在化したインフラは以下の4点です。

  • 信頼のインフラ: AI真贋鑑定が、高額品リユース市場の健全な成長と、即金アプリの信頼を担保しています。
  • 法務のインフラ: eKYCが、オンライン買取におけるコンプライアンスとUXを両立させ、ビジネスのスケールを可能にしました。
  • 金融のインフラ: 在庫ファイナンスが、買取業者のキャッシュフロー課題を解決する、業界固有の金融インフラとして機能し始めました。
  • 循環のインフラ: ポイント経済圏が、顧客を「売る人」から「買う人」へと転換させ、エコシステム内のLTVを最大化する循環基盤となりつつあります。
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この記事を書いた人

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